あれは仕事のプロジェクトが佳境を迎えていたある冬の朝のことでした。何気なく髪をブラシでとかしていると、後頭部にふと違和感を覚えました。鏡を合わせて恐る恐る確認してみると、そこには500円玉ほどの大きさの、つるりとした地肌が露出していたのです。私はあまりのショックに、その場に座り込んでしまいました。いわゆる円形脱毛症でした。これまで髪の量には自信があっただけに、まさか自分がなるとは夢にも思っていませんでした。最初は髪を下ろしていれば隠せる位置だったので、誰にも言わずに隠して過ごしていましたが、恐怖はそこから始まりました。洗髪するたびに排水溝が真っ黒になるほど髪が抜け、円形の脱毛斑が一つ、また一つと増えていったのです。 病院に行くと「多発性円形脱毛症」との診断を受けました。原因はやはり過度のストレスと、それに伴う自己免疫の異常でした。自分の免疫細胞が誤って毛根を攻撃してしまっているという説明を聞き、自分の体が自分を攻撃しているという事実にさらに落ち込みました。治療はステロイドの外用薬や内服薬、患部への注射などを行いましたが、すぐに生えてくるわけではありません。風が吹くのが怖く、人の視線が自分の頭に向けられているような被害妄想に囚われ、外出することさえ苦痛になりました。それでも、家族の励ましや、ウィッグを活用しておしゃれを楽しむ工夫をすることで、少しずつ前向きな気持ちを取り戻していきました。治療を始めて一年が経つ頃、ようやく産毛が生えてきたときの感動は忘れられません。この経験を通じて、髪は心のバロメーターであることを痛感しました。無理をしすぎていた自分を労ることの大切さを、脱毛症は教えてくれたのかもしれません。今は完治しましたが、再発防止のために、ストレスを溜め込まない生活を何より大切にしています。